瞬間の断片

こぼれだす

拉致と決断

 

 

 ある日突然知らない国に連れていかれるとは、まったくの突然に、晴天の霹靂かのように。

 

 そんなことが実際に起こった彼に、蓮池薫さんの【拉致と決断】を初めて読んだ。拉致、北朝鮮に関する本を読んだのはこれが初めてだった。言葉もわからない、何もわからないまま、20年以上そこで過ごした彼の生活、心情の変化が書かれていた。私にそれが起こったとしてどうなるか、どう考えるかなんて本を読んでそれがどんな浅ましいことかと思う。

 彼以外にも多くの人の身に起こった事実だ。、まず言葉を必死で習得し、食料も乏しい中での知恵を絞り、娯楽が少ない中で自ら娯楽を生み出し、人はなんて強いのか。いつも自身を守りながら言動に気を使い張り詰めた中過ごしていたかが垣間見え、今となっては昔のことだが身震いしそうになったことが度々あった。まるでずっと敵国にいる戦士のように。いや実際そうだっただろう。長い時間をかけても尚、祖国への気持ちが消えない気持ち、祖国への愛国心が私にもあるだろうかという疑心が確信となった。

 北朝鮮内で、朝鮮人として生きながら外国人であるという特殊な立場から見た景色が書かれていた。それが故、優遇されていた事もありつつ、度々出た旅先での出来事は興味深かった。現地の貧困の差、社会主義故の現実が次々と書かれていた。遠い国の出来事のように感じるがいつもそこにある海を越えた先の国模様かと思うと悲しくもあった。

 いつも韓国には楽しく遊びに行き、そのままの気分と気持ちで終わるけれどもう一つ先にあるかつて同じ国だったその国についてもっと知りたくもあり怖くもあった。この本を読む前にいくつかの脱北に関する動画を見た。ある程度どのような国であるかわかっていたつもりだったが、拉致被害者から見たその国とはまた少し違った姿が垣間見えた。

 

拉致について表面上のことは知っていたつもりだったが、なんとなくこれまで流し聞きしていたのみだったということがよく分かった。これからも北朝鮮についての本を読もうと思う。この本で得た知識ではまだわからなかった事を知りたい。どうして知りたいと思うのか自分でも分からないけれどもう少し知りたい、そう思った一冊だった。